《からだ》でありながらかえって若死をする気がしてならなかった。それがため他人の嫁入|沙汰《ざた》を聞いても他人は他人、自分は自分の運命があるという風に思って、結婚などをする自分ではないと堅く信じていた。『源氏物語』のような文学書を読んで作中の恋には自分の事のように喜憂することがあっても、それは夢の世界、空想の世界に遊んでいる自分に過ぎなかった。
また十七、八歳から後は露西亜《ロシヤ》のトルストイの翻訳物などを読んで、結婚は罪悪である、人種を絶やして無に帰するのが人間の理想だというような迷信がかなり久しい間自分を囚《とら》えていたので、自分は固《もと》より、偶《たまた》ま逢《あ》う同じ街の友人にも非結婚主義を熱心に勧めたりなんかした。そういうような事に由っても自分は男子の誘惑から隔った遠い彼方《かなた》に住んでいた。
親戚の者から縁談を勧める事もあったが、自分が汚らわしいという風に眉《まゆ》を顰《ひそ》めるので、自分の前でそんな話を持出す人も後には全くなくなった。親たちも家になくてならぬ娘であるから、自分が結婚を望む気振《けぶり》もないのを善《い》い事にして格別勧めようともしなかった
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