「純潔」を貴ぶ性情がある。鄙近《ひきん》にいえば潔癖、突込んで言えばこれが正しい事を好む心と連関している。この性情が自分の貞操を正しく持《じ》することの最も大きな理由になっているように考えられる。唯《た》だ貞操の上ばかりでなく、自分の今日までの一切はこの性情が中心になって常に支配しているように考えられる。自分の郷里は歴史と自然とこそ美くしい所に富んでいても、人情風俗は随分堕落した旧《ふる》い市街であり、自分の生れたのは無教育な雇人の多い町家である。従って幼い時から自分の耳や目に入る事柄には如何《いかが》わしい事が尠《すくな》くなかった。自分が七、八歳の頃から自分だけは異った世界の人のような気がして周囲の不潔な事柄を嫌い表面《うわべ》ではともかく、内心では常に外の正しい清浄な道を行こうとしていたのは、厳正な祖母や読書の好きな父の感化にも因るとはいえ、この「純潔」を貴ぶ性情からである。
 自分は十一、二歳から歴史と文学書とが好きで、家の人に隠して読み耽《ふけ》ったが、天照大御神《あまてらすおおみかみ》の如き処女天皇の清らかな気高《けだか》い御一生が羨《うらやま》しかった。伊勢《いせ》の斎宮
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