いたやうな松の木や、花咲く木の梢《こずゑ》の立ち並んで居るのが外から見えました。野からその南さんの家の見えますことは一二|里《り》の先へ行つても同じだらうと思はれる程大きいものでした。私の同級生の幾人かは日曜日毎に南さんの家へ遊びに行きました。私はそんな人達から一尺程の金魚の沢山沢山居ると云ふ池やら、綺麗な花の咲いた築山《つきやま》やら、梯子段《はしごだん》の幾つにも折曲つたと云ふ二階や、中二階、離座敷の話をして貰ふのが楽みでした。けれど私は人並を越した恥しがりでしたから一度も自身で行つて見たことはありません。南さんには何時《いつ》も一人の女中が附いて居ました。その時分の生徒が茶番《ちやばん》さんと云つた小使《こづかひ》の部屋で女中はお嬢さんのお人形を造つたりして何時《いつ》も待つて居ました。帯をだらりに結んで、白丈長《しろたけなが》を掛けた島田の女中は四五年の間|何時《いつ》も変らぬ同じ人だつたやうに思つてましたが、真実《ほんたう》は幾度か変つた別の女中だつたのかも知れません。
ある時に先生は、
「あなた方|室暖《まぬく》めと云ふものを知つて居ますか。」
と云ふことから暖炉《すとーぶ
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