私の生ひ立ち
與謝野晶子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)黒繻子《くろじゆす》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)満|三歳《みつつ》になつて
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\なことを
−−
私の生ひ立ち 一
学校へ行く私が、黒繻子《くろじゆす》の襟《えり》の懸つた、茶色地に白の筋違《すぢか》ひ雨《あめ》と紅《べに》の蔦の模様のある絹縮《きぬちゞみ》の袢纏《はんてん》を着初めましたのは、八歳《やつつ》位のことのやうに思つて居ます。私はどんなにこの袢纏が嫌ひでしたらう。芝居で与一平《よいちべい》などと云ふお爺《ぢい》さん役の着て居ますあの茶色と一所《いつしよ》の茶なんですものね。それは私の姉《ねえ》さんの袢纏だつたのを私が貰つたのだつたらうと思ひます。十一違ひと九つ違ひの姉《ねえ》さんの何方《どちら》かが着て居ましたのは恐らく私の生れない時分だつたらうと思ひます。大阪へ出て古着を安く買つて来るのがお祖母《ばあ》さんの自慢だつたやうですから、それも新しい切地《きれぢ》で私の家
次へ
全79ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング