通り越すと、もう漁師の家や貝細工を売る小家《こいへ》が並んで居ます。真直に真直に行けば海の中へ突出た燈台に出るまでその道は続いて居ます。昔は大きな船の入つた港だつた堺の海は、新大和川が川上の大和から無遠慮に砂を押し流して来るので、年々に浅くなるばかりで、今は貝を拾ふのに適した波らしい波も立たない所になつたのです。海辺には松も何も生えて居ません。大津《おほつ》の崎が淡路《あはぢ》とすれすれになつて見える遠い景色を好《い》いと見て居るだけの所です。旅館の建ち並んだ後《うしろ》に昔のお台場《だいば》があります。品川のと同じ式で唯《たゞ》海の中にないだけです。春は菫《すみれ》が沢山咲いて居ます。旭館の隣で、何とか云ふ名の小い丘の下に附いた道を曲つて街へ入つて来ますと、其処《そこ》の大道の角に私の家《うち》があります。大道をまた一町南へ行きますと宿院《しゆくゐん》と云ふ住吉神社のお旅所《たびしよ》があります。私の通つた小学校は宿院小学校と云つて、その境内《けいだい》の一部にあるのです。芝居や勧工場《くわんこうば》があつて、堺では一番繁華な所になつて居るのです。小学校の横を半町も東へ行きますと寺町
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