ます。柳の木が並木とは云へないほどちらほらと植わつて居ます。大小路の東西十町の真中を十字形に通つた南北の通《とほり》が大道《だいだう》と云はれる所です。北は大和橋に続いて居ます。和歌山県の方へ大阪から続いた国道です。大小路の西の堀割《ほりわり》に掛つた吾妻橋《あづまばし》を渡ると、其処《そこ》には南海鉄道の停車場があるのです。堀割の水はもう海へ近い所ですから、引潮の頃にはまるでありませんが、さし潮になると小船をふかふかと動かすやうな浪も立つて居ます。停車場の横に泉洲紡績《せんしうばうせき》の工場があります。赤錬瓦塀の上に地獄のやうな硝子《がらす》かけを立てた厭な所です。夕方と朝に髪へ綿くづを附けた哀れな工女が街々から通つて行く所は其処《そこ》なのです。その前は新田《しんでん》と云つて、埋立地の田畑になつて居ます。停車場から南へ行くと堀割が折れて海へでる所にかかつた勇橋《いさみばし》に出ます。此処《ここ》から北西へかけての海辺を北坡戸《きたばと》と云ふのです。橋の南を真面に行きますと大浜《おほはま》の海岸通になります。旭館《あさひくわん》と云ふ富豪の遊場所《あそびばしよ》の石垣の長いのを
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