城《かつらぎ》山脈になつて居ます。近い所には大仙陵《だいせんりよう》が青色の一かたまりになつて居ます。後《うしろ》を向いて街の方を見ますと、ずつと北の方に浅香山《あさかやま》の丘が見え、妙国寺《めうこくじ》の塔が見え、中央に開口《あぐち》神社の塔が見えます。私等が実を拾つて遊ぶ廻り二三|丈《ぢやう》もある開口神社の大木の樟《くす》が塔よりも高く見えます。塔は北にあるのも南のも三重屋根です。私はある時友達と一所《いつしよ》に、田圃へ螽斯《いなご》を取りに行つて狐に化された風《ふう》をしました。初めは戯談《じようだん》でしたのですが、皆がもうそれにしてしまふので仕方なしに続けてお芝居をして居ました。私は最初赤いしぶと花をいくつもいくつも取つてお煙草盆《たばこぼん》に結《ゆ》つた髪へ挿しました。
「皆さんも私と一所にあの御殿へ行きませうね。」
と云つて、御陵《ごりよう》の樋《ひ》の口《くち》に続いた森を指さしたりしました。私だけは父が迷信を極端に排斥したものですから、狐や狸のばかし話は嘘であると信じて居るのですが、友達は一人残らず住吉《すみよし》参りをした吉《きつ》つあんの話を真実《ほんたう
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