から、我儘《わがまゝ》を云ひ張つて、お盆にお菓子を充満《いつばい》載せたのを持つて来させて、隠居所の二階の八畳に女中と二人で座つて居ました。そして時々|欄干《てすり》の所へ行つて下の街を眺めました。それは竹中はんの影が見えないかと思ふからでした。そのうちに私はだん/\淋しい、心持になつて来ました。悔恨の悲みはもう私の胸にいつばいに広がつて居ました。竹中はんがおいでになつてから開けますと女中は云つて、庭向の方の雨戸はまだ閉めたまゝなのです。暗い縁側の方を向いて、こんな我儘をした私はもう本宅《おもや》へ行つて母にも姉にも逢はれないと云ふやうなことばかりを思ひました。そして昨日《きのふ》の約束は、双方の女中同志がしてくれたものの、竹中はんは真実《ほんたう》に来てくれるのだらうかと云ふ不安も感じないでは居られませんでした。欄干《てすり》の所へ倚《よ》つて見ますと、本宅《おもや》の煙突は午《ひる》近くなつてます/\濃い煙を吐くやうになり、窓の隙間から男女《なんによ》の雇人《やとひにん》の烈しく働いて居る姿の見えるにつけて、私は我儘者、不勉強者であると云ふことばかりが思われるのでした。色の白い細面
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