の賑やかな灯明《ひあか》りが思はれる程、沢山の人々は手に手に提灯を持つて走つて行くのでした。見舞に来て従兄と話をして居る人も三四人ありました。私は火元を二町北の半町程西寄りになつた具清《ぐせい》と云ふ酒屋であると知りました。火の見台で兄弟や奉公人の大勢が、話し合ふ声のするのをたよりに、私は暗い二階を手捜《てさぐ》りで通つて火の見台へ出ました。火の色には赤と黄と青が交つて居ました。半町四方程をつつんで真直《まつすぐ》に天を貫く勢で上つて居ました。火の子はまかれる水のやうに近い家々の上へ落ちるのでした。女中の顔も、丁稚《でつち》の顔も金太郎のやうに赤く見えました。具清の家と私の姉の家とは道を一つ隔てた地続きなのでしたから、私は姉の家の蔵が、今にも焼けるのではないかと思つて、悲んで居ました。この時もう月は落ちて上の空にはありませんでした。階下《した》へ降りますと御飯から立つ湯気の香《か》が夜の家いつぱいに満ちて匂つて居ました。これは竹村《たけむら》と云ふ姉の家へ贈る弁当の焚出《たきだ》しをして居るからなのでした。
「具清の家の人は一人も逃げて居ない。皆死んだのらしい。」
「妹さんが女中に助け
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