、私の子におなりなさいつてね。」
「まあよかつたこと。」
「けれど貧乏でね、お米ではなくて藁《わら》でお餅なんか拵《こしら》へて食べるだけなんです。」
「藁でお餅が出来《でけ》るんですか。」
「出来《でき》るんですよ。それにね豆の粉《こ》を附けてお婆さんは売りにも行くのです。清水《きよみづ》さんの滝の傍へ茶店を出してねえ。」
「清水さんは京だすか。」
「ええ、滝が三本になつて落ちて居てね、人が何時《いつ》も水を浴びてます。」
 自分の見た時がさうだつたものですから。
「その人が藁のお餅を買ふのだすか。」
「もつと外《ほか》の人も買ふのです。よく売れてね、忙しくつてね、夜分まで家《うち》へ帰れないのです。お婆さんが先に帰つて、私が後《あと》で店をしまつて帰るのでしたがね、大谷《おほたに》さんと云ふお墓のいつばいある山を通るのですから、恐くつてねえ。」
「こはいこと、まあ。」
「さうしたらある時|人取《ひとと》りが出て来たのですよ、頬かぶりして刀を差してね、それから手下が二人です。手下は槍を持つて居るのです。」
「刺されたんだすか。」
「ええ、突かれたけれど、もう癒りました。」
「何処《ど
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