くと、河原なのです。河原は夏なんか涼しくつてねえ。」
「継母は。」
「継母はこはいこはい継母でしたよ。こはいこはいこはい。」
私はかう云つて、次に云ふことを考へなければなりませんでした。
「私の家《うち》は友染屋《いうぜんや》なのです。縮緬《ちりめん》の友染屋なのですよ。あれはね、染めた後《あと》で川で洗はなければならないのです。私なんかも洗うのですよ。ぢやあないと継母が叱りますからねえ。」
「まあえらい、洗濯をしなはつたの。」
「ええ、日に二十|反《たん》位洗つては河原へ乾《ほ》しますの。」
「雨が降つたらどうするのだす。」
「そしたら雨が降つて来たのです。困つてねえ、私は。雨の水と川が一緒になつて、縮緬が流れるでせう。私は継母に叱られますから、何でも拾はうと思つてね、ずん/\加茂川の岸を走つて追つかけたのです。走つて走つて一晩走つて居ると、伏見《ふしみ》へ来たのです。」
「拾へたのだすか。」
「いいえ。」
「まあ。」
「たうとう見失つてしまつたのでせう。継母に叱られたらどうしようと思つて私が泣いて居ると、親切なお婆さんが来てね、私をその家《うち》へ伴《つ》れて行つてくれたのですよ
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