るのです。今迄隠して居ましたけれど。」
誰一人|真実《ほんたう》かと問ふ者もありません。皆驚きの目を見張つて居るだけです。
「では継子なんですか。」
「ええ、けれど私は京に居ても、継母を持つてたのですよ。初めから継子ですよ。」
「可哀相なこと。」
と口々に云つて、私の背を撫でたりする人もありました。何時《いつ》の間《ま》にか外《ほか》の継子話に寄つた人達も私の傍《そば》へ皆出て来ました。
「私の家は京の三条通りなんです。横町は松原通りです。」
松原も三条も東西の通りですが、私はこんなことを云つてました。
「そして家《うち》の左の方は加茂川《かもがは》なのです。綺麗《きれい》な川なのですよ、白い石が充満《いつぱい》あつてね、銀のやうな水が流れて居るのです。東山《ひがしやま》も西山《にしやま》も北山《きたやま》も映ります。八坂《やさか》の塔だの、東寺《とうじ》の塔だの、知恩院《ちおんゐん》だの、金閣寺《きんかくじ》だの銀閣寺《ぎんかくじ》だのがきらきらと映ります。」
「まあそんなにいゝとこだすか。」
「ええ、家《うち》の裏の木戸を開けて、石段を下りて、それから小い橋をとん/\と踏んで行
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