、宿院浜《しゆくゐんはま》、熊野浜《くまのはま》などと組々の名の書いた団扇《うちは》を持つて、後鉢巻《うしろはちまき》をした地車《だんじり》曳きの子供等が、幾十人となく裸足《はだし》で道を通ります。風呂に入りますと、浴槽《ゆぶね》の湯が温泉でも下に湧き出して居るやうに、地車《だんじり》の響で波立ちます。大鳥さんの日の着物は、大抵紺地か黒地の透綾上布《すきやじやうふ》です。襦袢《じゆばん》の袖は桃色の練絹《ねりぎぬ》です。姉は水色、母は白です。男作《をとこづく》りと云つて小い時から、赤気の少い姿をさせられて居る私等のやうな子のさせられる帯は、浅黄繻子《あさぎじゆす》と大抵決まつて居ました。襦袢の襟《えり》もそれです。頭はおたばこぼんですから、簪《かんざし》の挿しやうもありません。そして私等はその年方々の取引先から贈られました団扇の中で一番気に入つたのをしまつて置いたそれを持つて、新しい下駄を穿《は》いて門《かど》へ出ます。何方《どちら》を向いても桟敷欄干《さじきてすり》に緋毛氈の掛けられた大通りは、昨日《きのふ》と同じ道であるとも思はれないのでした。友も連立つてまた其処《そこ》此処《ここ
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