の中へ入つても、祭の当日の話が大人達の中に余りはづみ上ると、また帯をして外へ飛び出したくなつたり私はしました。そしていよ/\大鳥さんの日になります。私の家のやうな商買をして居ない人の所では、朝からもうお祭のことばかりをして居ていゝのですが、私の家などは、さうは行かないのです。得意先の注文の殊に多いのがさうした日の常ですから、午前中は私も店の手伝ひに、勇気を出して働かねばなりませんでした。丁稚《でつち》に交つて水餅《みづもち》を笹の葉へ包んだりすることも、手早にせねばなりませんでした。けれどもその騒ぎは、何時《いつ》の間にか土蔵《くら》から屏風や、燭台や、煙草盆や、碁盤やを運び出す忙しさに変つて居るのが例でした。幕が門《かど》に張られ、黒と白の石畳みになつた上敷《うはしき》が店に敷かれ、その上へ毛氈《もうせん》が更に敷かれ、屏風が立てられますと、私等は麻のじんべゑ姿がきまり悪くなりまして、半巾《はんはゞ》の袖を胸で合せて、早く湯の湧くやうにして欲しいと女中に頼みました。そのうち空の雷鳴が遠くから次第に近い所へ寄つて来るやうに響いて、地車《だんじり》の音がして来ます。大海浜《だいかいはま》
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