つてからのことです。藤間のお師匠さんの所へ通つて居た頃から云へば、五年も後《のち》の十歳《とを》か十一の時の夏の日に、父が突然私のために西瓜燈籠《すいくわどうろう》を拵《こしら》へてやらうと云ひ出しました。どんなに嬉しかつたか知れません。老婢は早速八百屋へ走つて行つて、ころあひの小い西瓜を選《え》つて買つて来ました。父は私にどんな模様がいゝかと尋ねましたが、私は何でもいゝと云つて居ました。出来上りましたのは一面に匍《は》つた朝顔の花の青白く光つて透き通る美しさの限りもなく思はれる燈籠でした。その晩軒に吊して置きますと通る人で振返つて賞めて行かないものはない程でした。父は翌日また弟に馬の絵を彫つた燈籠を作つてやりました。その夜の涼台《すゞみだい》の上には朝顔のとそれが並んで吊されました。三|疋《びき》の馬が勢よく飛び上つて居る図がらの好《い》いのを、また街を通る人々が賞めて行きました。私は少し自分のがけなされたやうな悲みを感じました。三日目に父は妹のために楓の葉と短冊を彫つた燈籠を作りました。それは朝顔などの線の細い模様とちがつて、くつきりと浮き出したやうな鮮明《あざやか》さは何にも比べ
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