等に。

お歌ちやん

 お照《てる》さんは向ひの仏師屋《ぶつしや》の子で、私より二つの歳上《としうへ》でしたが、背丈は私の方が高いのでした。お春《はる》さんはその人の姉《ねえ》さんでした。隣の藍玉屋《あゐだまや》には、より江《え》さんと云ふ子がありました。それは私に同年《おないどし》でした。その姉《ねえ》さんが茂江《しげえ》さんで、そのもう一つ上が幾江《いくえ》さんでした。斜向《すぢむか》ひの角の泉勇《いづゆう》と云ふ仕立屋の子は、お歌《うた》ちやんと、名を云ひました。お歌ちやんは優しくて女のやうな気のする兄《にい》さんと、菊石《あばた》の顔にある嫂《あによめ》に育てられて居るのでした。両親はもうありませんでした。私が学校へ行き初めた頃、力にしたのはこのお歌ちやんでした。小い姉がお歌ちやんによく頼んで置いたと云つてくれませんでしたら、七歳《なゝつ》になつて再入学をしました私は、また学校を恐がつたかも知れません。お歌ちやんは三歳《みつつ》位は私より大きい子供でした。前髪と後毛を円《まる》く残したあとを青々と剃つた頭をして居ました。私は毎朝お歌ちやんを誘ひに寄りました。
「お歌ちやん、お
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