ぢかひ》に歩いて出口の方へ行《ゆ》く。
『勝間さんが来てよ。』
と桃|割《われ》の女は二人に云つた。
『さうで御座いますか。』
と云つて山崎が向うを見る。丁度《ちやうど》其時大島の重ねに同じ羽織を着て薄鼠の縮緬の絞りの兵児《へこ》帯をした、口許《くちもと》の締つた地蔵眉の色の白い男が駅夫《えきふ》に青い切符を渡して居た。
『真実《ほんとう》に勝間《かつま》さんよ。』
背の高い山崎は少し身を屈《かゞ》めるやうにして黒子《ほくろ》の女に云つた。
『まあ真実《ほんとう》ね。』
その男は三人の立つて居る近くへ歩いて来た。
『お呼びよ、山崎さん。』
と桃|割《わ》れの女は云つた。
『勝間さん、勝間さん。』
笑ひながら山崎が云つた。
『僕。』
と云つて横を向いた男の目に桃割れの女の姿が映つたらしい。続いて二人の女にも気が附いたらしい。
『何処《どこ》へいらつしやるの。』
傍へ来た男はかう云つて桃|割《われ》の女を上から下までじつと眺めた。
『山崎さんの家へ遊びに伴《つ》れて行つて貰うのよ。』
と桃|割《われ》の女は云つた。
『お嬢さんを拝借して参りましたのですよ。一晩|泊《どま》
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