服の入つてあるのを見ましてね、税を取らうと云ふ風を見せる人達に、灰色の髪の女がよくおしやべりをしますこと。
わたしのはルイさんが説明したので直ぐ通りましたよ。
自動車が雇はれましてね、わたし達日本人が四人乗りました。ルイさん達は外へ廻るんですつて。
向うの角《かど》に軒が張り出してあつて、いい形に反つた椅子が沢山並べてあつて、男や女がその店に沢山居る家がありましたよ。わたしが恐る恐る巴里と云ふ都に目を向けたこれが初めです。
『奥さん、えらいですね、あなたわ。』
長谷部さんです。こんなことを向ひ合つてる私に云ふのは。
『さうぢやありませんわ。』
わたしは福永さんとももう親しい言葉を交して居ました。
『昨日からわたし何も食べないんですよ。』
わたしは誰に云ふともなしに。
『さうか。』
と云つて、良人はじつとわたしの顔を眺めました。
『でも別に食べたくなんかありませんわ。あなた。』
初めて云へましたの、すらすらと良人にね。
小雨のあとのしんみりと湿つた土を踏んで行くやうな気持を覚えさせられて、わたしは街を通つて居ましたよ。
十分位でもう※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83
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