這つて居るのでせう。山は代赭と緑の絵の具を無茶になすり附けたやうな色。一番冷い色をしたのが間にある街なんでせう。ですからね、却て向うの方が水の流れて居る川のやうなのです。
わたしは前の川をセエヌ川かしらと思ひました。又さうぢやなからうと思ひました。わたしはもう地図なんか出して見られやあしない。わたしの手はもうぶるぶると慄えて居ます。何が出来ますものですかねえ。
川が見えなくなつたり、その川と思ふやうな水を渡つたり、さうかと思ふとまた以前と同じ方角に同じやうな川があつたり、細くてそして房々とした枝の木が多いそんな林を通つたり、崖と崖の間を通つたりして居るうちに、石ばかりで出来上つたやうな小都市の上を通つて行くのでしたわ。お墓のやうな気のする清い街だと思ひましてね、私はまた思はず廊下へ出ましたの、四五人も窓から外を見てましたわ。此方側の方はその綺麗な家の壁などとすれすれに[#「に」は底本では脱落]なつて行くのでした。[#「。」は底本では脱落]青い羽蒲団を窓へ出して居る娘さんや、はたきを肩にかついだやうな形のままで立つて居た女中なんかとわたしも真近に顔を合せましたわ。
それから一時程経
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