りがつながつてるんですものね。それにわたしのやうな、昨日からあと二日位食事はしないで置かうと、必要上考へなければならなかつたやうな女が乗つてるんですものね、可笑しいわけですわねえ。
 わたしの卓の上にはまだ化粧品や何かがしまはれずに置いてあるのですわ、暇つぶしがなくなつては困りますからね。書物なんかはもう皆片附けてしまつたのです。書物と云つてもね、太抵もう西部利亜の間で三四度も読んだもので、もう味の薄くつまらないものになつたものばかしでしたもの。
 わたしは又席へ帰つて来て、随分沢山な荷物だと思つて、頭の上から足の廻りを見廻しましたよ。
 川が見え出しましたの、岸の低いねえ、一寸手を伸してもしやぶしやぶと水なぶりが出来さうな川。向うの堤には小枝の多い円い形の木が並んで居ましたよ。かなりいろんな船が居りますのよ。隅田川の半分くらゐの川だけれど。甲板の黄色く塗つたのや、赤い色の沢山使はれたのや、紫がかつた黒い船やとかねえ。人も随分乗つて遊んでるの、向う岸の処々には船と同じやうな美くしい色をした小家があるんです。その向うがずうと薄お納戸色にぼけた街の家並なんでせう。一番向うは空の下を低い山が
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