を離縁し若くは別居せしめる理由にはなつて居ません。姑は如何なる場合も尼將軍として若夫婦に臨む權利を持つて居ます。嫁に危害を加へ、又は嫁と不折合のために親族會議が其姑を離別する決議を實行した例を知りません。之に反して嫁は姑の下にあつて常に實家の生母に對するよりも幾倍の柔順と忍從を餘儀なくされます。さうして姑の意を迎へないでする嫁の言行はそれが過失であり、不孝であり、罪惡であるらしく殆ど寸毫も假借されないのが普通です。其れが過失と云ふ程のものでなくても、姑の機嫌に逆へば、良人の愛の有無や良人の意見に頓着なく、また勿論嫁の辯解を取り上げること無しに、それを直ぐに離縁の理由として姑は息子に迫り、息子は已むを得ず其妻に離別を宣告する結果になります。姑が或理由を附して嫁を離別させるのはまだ好い方であつて甚しきは理由が無いと唯だ無茶苦茶に苛《いぢ》め通した擧句、姑の一存で嫁を追ひ返してしまふ例さへ珍しくないのです。嫁がさう云ふ不法な姑に對して正當な自由を主張することは在來の道徳習慣が全く許しません。まして反抗の態度にでも出たら姑からばかりでなく社會からも不貞不孝の惡名を着せられますから、太抵は嫁の方
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