後、子宮病時)や或境遇(久しい間の独身、異常な災厄)に伴う共通の発作症である。それに強烈なのと微弱なのとあり、また遺伝から来るのと特発するのとあるが、それが或事を誘因として遽《にわ》かに迫って来る時には、人は意識の統一を失って自分で自分が制し切れなくなるものである。私は自身に精神病者の血を引いているし、父が卒中で斃《たお》れたほどの大酒家であったので、自然に病的な素質を持っていて、或時期に往往はげしいヒステリイに襲われることがあるから、その若い妻が逆上して刃物を投げ附けたという心理を十分に想像することが出来るのである。投げた物が偶《たまた》ま刃物であったために大それた刃傷沙汰になったが、ヒステリイの不可抗力に襲われたその時の気分は、何でもいいから手当り次第に投げ散して鬱積《うっせき》した心の蒸汽を狂的に洩《もら》さずにはいられないのである。そしてその不可抗力に襲われて無茶苦茶なことをしてしまった後の甚《はなはだ》しい悔恨と不快さはこれを経験しない人に到底理解の出来そうにないことである。意識の自制を失った際とはいえ、姑に刃物を投げ附けて負傷させたような結果を作ったのであるから、その瞬時の
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