姑と嫁について
与謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)苛酷《かこく》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)誠心誠意|懺悔《ざんげ》の涙

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「あてこすり」に傍点]
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 或会社の技師をしている工学士某氏の妻が自分に対する苛酷《かこく》を極めた処置に堪えかねて姑を刺したという故殺《こさつ》未遂犯が近頃公判に附せられたので、その事件の真相が諸新聞に現れた。嫁が姑を刃傷《にんじょう》したということは稀有《けう》な事件である。無教育な階級の婦人間においてさえ類例を見出しがたいことであるのに、工学士の妻として多少の教育もあり、女優として立とうと決心していたほど新代の芸術に対する渇仰《かつごう》もある婦人が、こういう惨事を引起すに至ったについては何か特別な理由がなくてはならない。私は諸新聞の態度が初めから一概に被告を憎んで掛らずに、力《つと》めて細かに事件の真実を伝えようとし、その結果『東京朝日』記者のように特に被告に対して同情のある報道をされたことを、被告と同じ女性の
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