みになるのもしばらくの御|辛抱《しんぼう》で、近い将来に幸福な御生活へおはいりになるものと、あなた様のその日をお待ちしていましたのに、こんなことを決行しておしまいになりまして、これからをどうあそばすつもりでございましょう。老い衰えた者でも出家をしてしまいますと、人生へのつながりがこれで断然切れたことが認識されまして悲しいものでございますよ」
なおも惜しんで言うのであったが、
「私の心はこれで安静が得られてうれしいのですよ。人生と隔たってしまったのはいいことだと思います」
こう浮舟は答えていて、はじめて胸の開けた気もした。
翌朝になるとさすがにだれにも同意を求めずにしたことであったから、その人たちに変わった姿を見せるのは恥ずかしくてならぬように思う姫君であった。髪の裾《すそ》がにわかに上の方へ上がって、もつれもできて拡《ひろ》がった不ぞろいになった端を、めんどうな説法などはせずに直してくれる人はないであろうかと思うのであるが、何につけても気おくれがされて、居間の中を暗くしてすわっていた。自分の感想を人へ書くようなことも、もとからよくできない人であったし、ましてだれを対象として叙述し
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