き出した。笛も琴も音のやんだのは自分の音楽をもっぱらに賞美したい心なのであろうと当人は解釈して、ちりふり[#「ちりふり」に傍点]、ちりちり[#「ちりちり」に傍点]、たりたり[#「たりたり」に傍点]などとかき返してははしゃいだ言葉もつけて言うのも古めかしいことのかぎりであった。
「おもしろいですね。ただ今では聞くことのできないような言葉がついていて」
などと中将がほめるのを、耳の遠い老尼はそばの者に聞き返して、
「今の若い者はこんなことが好きでなさそうですよ。この家《うち》に幾月か前から来ておいでになる姫君も、容貌《きりょう》はいいらしいが、少しもこうしたむだな遊びをなさらず引っ込んでばかりおいでになりますよ」
と、賢《さかし》がって言うのを尼夫人などは片腹痛く思った。大老人のあずま琴で興味のしらけてしまった席から中将の帰って行く時も山おろしが吹いていた。それに混じって聞こえてくる笛の音が美しく思われて人々は寝ないで夜を明かした。
翌日中将の所から、
[#ここから1字下げ]
昨日は昔と今の歎きに心が乱されてしまいまして、失礼な帰り方をしました。
[#ここから2字下げ]
忘られぬ昔
前へ
次へ
全93ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング