のことも笛竹の継ぎし節《ふし》にも音《ね》ぞ泣かれける
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あの方へ私の誠意を認めてくださるようにお教えください。内に忍んでいるだけで足る心でしたならこんな軽はずみ男と見られますようなことまでは決して申し上げないでしょう。
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と言う消息が尼君へあった。これを見て昔の婿君をなつかしんでいる尼夫人は泣きやむことができぬふうに涙を流したあとで返事を書いた。
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笛の音に昔のことも忍ばれて帰りしほども袖ぞ濡《ぬ》れにし
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不思議なほど普通の若い人と違った人のことは老人の問わず語りからも御承知のできたことと思います。
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と言うのである。
恋しく思う人の字でなく、見なれた昔の姑《しゅうとめ》の字であるのに興味が持てず、そのまま中将は置き放しにしたことであろうと思われる。
荻《おぎ》の葉に通う秋風ほどもたびたび中将から手紙の送られるのは困ったことである。人の心というものはどうしていちずに集まってくるのであろう、と昔の苦しい経験もこのごろはようやく思い出されるようになった浮舟は思
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