だ四、五人だけがまた庭の怪しい物を見に出たが、さっき見たのと少しも変わっていない。怪しくてそのまま次の刻に移るまでもながめていた。
「早く夜が明けてしまえばいい。人か何かよく見きわめよう」
と言い、心で真言《しんごん》の頌《じゅ》を読み、印を作っていたが、そのために明らかになったか、僧都は、
「これは人だ。決して怪しいものではない。そばへ寄って聞いてみるがよい。死んではいない。あるいはまた死んだ者を捨てたのが蘇生《そせい》したのかもしれぬ」
と言った。
「そんなことはないでしょう。この院の中へ死人を人の捨てたりすることはできないことでございます。真実の人間でございましても、狐とか木精《こだま》とかいうものが誘拐《ゆうかい》してつれて来たのでしょう。かわいそうなことでございます。そうした魔物の住む所なのでございましょう」
と一人の阿闍梨は言い、番人の翁を呼ぼうとすると山響《やまびこ》の答えるのも無気味であった。翁は変な恰好《かっこう》をし、顔をつき出すふうにして出て来た。
「ここに若い女の方が住んでおられるのですか。こんなことが起こっているが」
と言って、見ると、
「狐の業《わざ
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