》ですよ。この木の下でときどき奇態なことをして見せます。一昨年《おととし》の秋もここに住んでおります人の子供の二歳《ふたつ》になりますのを取って来てここへ捨ててありましたが、私どもは馴《な》れていまして格別驚きもしませんじゃった」
「その子供は死んでしまったのか」
「いいえ、生き返りました。狐はそうした人騒がせはしますが無力なものでさあ」
なんでもなく思うらしい。
「夜ふけに召し上がりましたもののにおいを嗅《か》いで出て来たのでしょう」
「ではそんなものの仕事かもしれん。まあとっく[#「とっく」に傍点]と見るがいい」
僧都は弟子たちにこう命じた。初めから怖気《おじけ》を見せなかった僧がそばへ寄って行った。
「幽鬼《おに》か、神か、狐か、木精《こだま》か、高僧のおいでになる前で正体を隠すことはできないはずだ、名を言ってごらん、名を」
と言って着物の端を手で引くと、その者は顔を襟《えり》に引き入れてますます泣く。
「聞き分けのない幽鬼《おに》だ。顔を隠そうたって隠せるか」
こう言いながら顔を見ようとするのであったが、心では昔話にあるような目も鼻もない女鬼《めおに》かもしれぬと恐ろし
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