めていると、そこに白いものの拡《ひろ》がっているのが目にはいった。あれは何であろうと立ちどまって炬火を明るくさせて見ると、それはすわった人の姿であった。
「狐《きつね》が化けているのだろうか。不届な、正体を見あらわしてやろう」
と言った一人の阿闍梨は少し白い物へ近づきかけた。
「およしなさい。悪いものですよ」
もう一人の阿闍梨はこう言ってとめながら、変化《へんげ》を退ける指の印を組んでいるのであったが、さすがにそのほうを見入っていた。髪の毛がさかだってしまうほどの恐怖の覚えられることでありながら、炬火を持った僧は無思慮に大胆さを見せ、近くへ行ってよく見ると、それは長くつやつやとした髪を持ち、大きい木の根の荒々しいのへ寄ってひどく泣いている女なのであった。
「珍しいことですね。僧都様のお目にかけたい気がします」
「そう、不思議千万なことだ」
と言い、一人の阿闍梨は師へ報告に行った。
「狐が人に化けることは昔から聞いているが、まだ自分は見たことがない」
こう言いながら僧都は庭へおりて来た。
尼君たちがこちらへ移って来る用意に召使の男女がいろいろの物を運び込む騒ぎの済んだあとで、た
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