二日宿泊をさせてほしいと頼みにやると、ちょうど昨日初瀬へ家族といっしょに行ったと言い、貧相な番人の翁《おきな》を使いは伴って帰って来た。
「おいでになるのでございましたらがらっ[#「がらっ」に傍点]としております寝殿をお使いになるほかはございませんでしょう。初瀬や奈良へおいでになる方はいつもそこへお泊まりになります」
 と翁は言った。
「それでけっこうだ。官有の邸《やしき》だけれどほかの人もいなくて気楽だろうから」
 僧都はこう言って、また弟子を検分に出した。番人の翁はこうした旅人を迎えるのに馴《な》れていて、短時間に簡単な設備を済ませて迎えに来た。僧都は尼君たちよりも先に行った。非常に荒れていて恐ろしい気のする所であると僧都はあたりをながめて、
「坊様たち、お経を読め」
 などと言っていた。初瀬へついて行った阿闍梨と、もう一人同じほどの僧が何を懸念《けねん》したのか、下級僧にふさわしく強い恰好《かっこう》をした一人に炬火《たいまつ》を持たせて、人もはいって来ぬ所になっている庭の後ろのほうを見まわりに行った。森かと見えるほど繁《しげ》った大木の下の所を、気味の悪い場所であると思ってなが
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