て、遠国に漂泊《さすら》えておりましたが、たまたま帰京が許されることになりますと、また雑務に追われてばかりおりますようなことで、長い前からお伺いいたして故院のお話を承りもし、お聞きもいただきたいと存じながら果たしえませんことで悶々《もんもん》としておりました」
「あなたの不幸だったころの世の中はまあどうだったろう。昔の御代もそうした時代も同じようにながめていねばならぬことで私は長生きがいやでしたが、またあなたがお栄えになる日を見ることができたために、私の考えはまた違ってきましたよ。あの中途で死んでいたらと思うのでね、長生きがよくなったのですよ」
 ぶるぶるとお声が震う。また続けて、
「ますますきれいですね。子供でいらっしった時にはじめてあなたを見て、こんな人も生まれてくるものだろうかとびっくりしましたね。それからもお目にかかるたびにあなたのきれいなのに驚いてばかりいましたよ。今の陛下があなたによく似ていらっしゃるという話ですが、そのとおりには行かないでしょう、やはりいくぶん劣っていらっしゃるだろうと私は想像申し上げますよ」
 長々と宮は語られるのであるが、面と向かって美貌《びぼう》をほ
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