める人もないものであると源氏はおかしく思った。
「さすらい人になっておりましたころから非常に私も衰えてしまいました。陛下の御美貌は古今無比とお見上げ申しております。あなた様の御想像は誤っておりますよ」
 と源氏は言った。
「では時々陛下を拝んでおればいっそう長生きをする私になりますね。私は今日でもう人生のいやなことも皆忘れてしまいましたよ」
 こんなお話のあとでも五の宮はお泣きになるのである。
「お姉様の三の宮がおうらやましい。あなたのお子さんを孫にしておられる御縁で始終あなたにお逢いしておられるのだからね。ここのお亡《な》くなりになった宮様もその思召しだけがあって、実現できなかったことで歎息《たんそく》をあそばしたことがよくあるのです」
 というお話だけには源氏も耳のとまる気がした。
「そうなっておりましたら私はすばらしい幸福な人間だったでしょう。宮様がたは私に御愛情が足りなかったとより思われません」
 と源氏は恨めしいふうに、しかも言外に意を響かせても言った。
 女王《にょおう》のお住まいになっているほうの庭を遠く見ると、枯れ枯れになった花草もなお魅力を持つもののように思われて、そ
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