では、今日はあんなにおっしゃいますから、お送りにだけついてまいります。あちらがああおっしゃるのももっともですし、あなた様が行きたく思召《おぼしめ》さないのも御無理だとは思われませんし、私は中に立ってつらくてなりませんから」
 と言う。この人までも女王を捨てて行こうとするのを、恨めしくも悲しくも末摘花は思うのであるが、引き止めようもなくてただ泣くばかりであった。形見に与えたい衣服も皆悪くなっていて長い間のこの人の好意に酬《むく》いる物がなくて、末摘花は自身の抜け毛を集めて鬘《かずら》にした九尺ぐらいの髪の美しいのを、雅味のある箱に入れて、昔のよい薫香《くんこう》一|壺《つぼ》をそれにつけて侍従へ贈った。

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「絶ゆまじきすぢを頼みし玉かづら思ひのほかにかけ離れぬる
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 死んだ乳母《まま》が遺言したこともあるからね、つまらない私だけれど一生あなたの世話をしたいと思っていた。あなたが捨ててしまうのももっともだけれど、だれがあなたの代わりになって私を慰めてくれる者があると思って立って行くのだろうと思うと恨めしいのよ」
 と言って、女王は非常に泣い
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