が何よりもよく似合うことだろうと思います」
とだけ末摘花は言う。
「それはそうお思いになるのはごもっともですが、生きている人間であって、こんなひどい場所に住んでいるのなどはほかにめったにないでしょう。大将さんが修繕をしてくだすったら、またもう一度玉の台《うてな》にもなるでしょうと期待されますがね。近ごろはどうしたことでしょう、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮の姫君のほかはだれも嫌《きら》いになっておしまいになったふうですね。昔から恋愛関係をたくさん持っていらっしゃった方でしたが、それも皆清算しておしまいになりましたってね。ましてこんなみじめな生き方をしていらっしゃる人を、操《みさお》を立てて自分を待っていてくれたかと受け入れてくださることはむずかしいでしょうね」
こんなよけいなことまで言われてみると、そうであるかもしれないと末摘花は悲しく泣き入ってしまった。しかも九州行きを肯《うべな》うふうは微塵《みじん》もない。夫人はいろいろと誘惑を試みたあとで、
「では侍従だけでも」
と日の暮れていくのを見てせきたてた。侍従は名残《なごり》を惜しむ間もなくて、泣く泣く女王《にょおう》に、
「それ
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