た。侍従も涙でものが言えないほどになっていた。
「乳母《まま》が申し上げましたことはむろんでございますが、そのほかにもごいっしょに長い間苦労をしてまいりましたのに、思いがけない縁に引かれて、しかも遠方へまで行ってしまいますとは」
と言って、また、
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「玉かづら絶えてもやまじ行く道のたむけの神もかけて誓はん
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命のございます間はあなた様に誠意をお見せします」
などとも言う。
「侍従はどうしました。暗くなりましたよ」
と大弐《だいに》夫人に小言《こごと》を言われて、侍従は夢中で車に乗ってしまった。そしてあとばかりが顧みられた。困りながらも長い間離れて行かなかった人が、こんなふうにして別れて行ったことで、女王はますます心細くなった。だれも雇い手のないような老いた女房までが、
「もっともですよ。どうしてこのままいられるものですか。私たちだってもう我慢ができませんよ」
こんなことを言って、ほかへ勤める手蔓《てづる》を捜し始めて、ここを出る決心をしたらしいことを言い合うのを聞くことも末摘花の身にはつらいことであった。十一月になると雪や霙《
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