の下へ出て来ました。お近は袖口をくけかけて居た仕事をずつと向うへ押しやりました。
「何故《なぜ》黙つて居ました。自身の身体《からだ》のことを自身で思はないでどうするお幸。」
「はい。私《わたし》は外の仕事の見つかるまでと思つて辛抱して居ましたけれど。」
「外の仕事つて。」
「私《わたし》今晩帰り途《みち》で大津の郵便局の郵便脚夫の見習に十五以上の男を募集すると云ふ貼紙《はりがみ》を見ましたから、母さん、私は男の姿になつて髪なんかも切つて雇はれに行かうかしらと云ふやうなことも考へて来たのです。」
とお幸は思ひ切つて云ひました。
「おまへにそんな働きが出来ますか。」
「私《わたし》はよく歩きますし、丈夫ですし。」
「それだけの理由《わけ》で郵便屋さんにならうと言ふの。」
「いゝえ。私《わたし》は世の中の手助けになる仕事ですからして見たいのです。」
「今の仕事は。」
「女中と云ふものが主人の家に大勢居ることは一層お金持を怠惰者《なまけもの》にするだけのもので、世の中の為《た》めにはならないと私《わたし》は気が附きました。さうぢやないでせうか。」
「それはさうかも知れない。」
「私《わたし》は
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