月夜
与謝野晶子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お幸《かう》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)喜《き》一|郎《らう》と

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)きら/\と
−−

 お幸《かう》の家は石津村《いしづむら》で一番の旧家でそして昔は大地主であつた為《た》めに、明治の維新後に百姓が名字《みやうじ》を拵《こしら》へる時にも、沢山の田と云《い》ふ意味で太田《おほた》と附《つ》けたと云はれて居ました。それだのに祖父の時に自身が社長をして居た晒木綿《さらしもめん》の会社の破綻《はたん》から一時に三分の二以上の財産を失ひ、それから続いてその祖父が亡くなり、代つて家長になつたお幸の父はまだやつと二十歳《はたち》になつたばかりの青年であつた為《た》め、番頭の悪手段にかゝつて財産を殆《ほとん》ど総《すべ》て他へ奪はれてしまつたのでした。喜《き》一|郎《らう》と云つた其《その》お幸の父も、お幸とお幸より三つ歳下《としした》の長男の久吉《ひさきち》がまだ幼少な時に肺病に罹《かか》つて二年余りも煩《わづら》つ
次へ
全13ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング