自分の出来ることの中で一番いい仕事をしなければならないと思ひます。」
「十五になると大分理屈が解《わか》るね。」
お近はかう云つて久吉の方を見ました。
「姉さんはえらいや。僕なんかは学校を出たら百姓になるのが一番いいことだと思つて居た。」
と久吉は云ひました。
「お幸は百姓をどう思ふの。」
「まだそれは考へません。」
「それを考へないことがあるものですか。母様《かあさん》が若し間違つたことをして居たらおまへは注意をしてくれなければならないぢやないの。母様《かあさん》のして居ることは百姓ですよ。私《わたし》は世の中へ迷惑をかけないで暮して行くと云ふことが世の中の為《た》めだと思つて居るよ。自身で食べる物を作つて私は自分やおまへ達の着物を織つて居ます。自分の出来ないものは仕事の賃金に代へて貰つて来ると云ふこの暮しやうが私には先《ま》づ一番間違ひのない暮しやうだと思つて居るよ。」
お近のこの話をお幸は両手を膝《ひざ》の上で組合せてうやうやしく聞いて居ましたが。顔を上げて、
「母さん、田や畑はもう少し余計に貸して貰へるのですか。」と言ひました。
「小作人が少くて困つて居るのですもの、貸して
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