呉《く》れますとも。」
「髪を切つてお芝居のやうなことをするよりも私《わたし》のすることは、母様《かあさん》、あつたのですよ。」
「何のことですか。」
「野仕事です。百姓です。」
「さうかね。おまへが郵便局へ行きたいと云ふから、私《わたし》は男になつたりなどしないで、局長に逢《あ》つて女の儘《まま》で、採用《つか》つて貰ふことを一生懸命ですればいいと思つて居たよ。私には百姓がいいと云つただけで、おまへを百姓にしようと思つて居るのぢやないよ。」とお近は言ひました。
「姉さん百姓におなりよ。三人で百姓をすると決めませうよ。」と久吉は云ふのでした。
「私《わたし》は何でも出来ますが百姓でも出来ます。」
「それではなつて見るがいいよ。ねえお幸、今日|角造《かくざう》さんに聞くと三本松の家を山仁《やまに》さんはまた堺の商人へ売るさうだよ。私《わたし》はそれがいいと思つて居るよ。おまへ達は知らないがそれはそれは無駄に広い家なんだからね。あれを真実《ほんたう》に人間仲間の役に立てようと思ふなら大勢の使ふものにしなければならないのだからね。堺へ持つて行つて幾つかの家に分けて拵へたらいいだらうよ。併《し
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