つては家族制度を必要とした未開時代もありました。しかしながら家長一人の力で全家族の衣食と教育とに要する経済的条件を負担することが出来ない上に、個人の欲望が大きくなり多様になって、家族の各があながち父祖以来の家業を守ることを好まず、何人《なんぴと》も適材を抱いて適所に奔《はし》ろうとし、また父祖以来の家業を守ろうとしても、その家業が現代に適しないものであったり、あるいは辛《かろ》うじて家長一人に属する家族の最小限度の経済生活を支えるに足って、到底その他の大家族を養うことが出来なかったりする現代の家庭の経済状態において、どうして家族制度を維持することが出来ましょう。家族制度の今一つの要素となるものは親子兄弟という血縁関係ですが、今日の実際生活においては、第一に前に挙げた経済状態の圧迫がその血縁関係の結合をも解き放ち、その上、各人の事業欲や名誉欲も手伝って、戸主以外の青年男女をその故郷の家に固着させて置きません。家族制度を最も遅くまで守持するであろうと思われる農家が、かえって第一にその子女の大多数を他郷の人たらしめねばならない時代となっています。都会における戦後の失職者に帰農を勧誘するような
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