こういう保守思想がまだ優勢を示している日本において、人道主義や民主主義の思想が容《い》れられず、反対に危険思想であるが如き冤名《えんめい》をこれに着せようとする頑冥な反抗を見るのはやむをえない事だと思います。独逸《ドイツ》という外敵に勝った各国の人道主義者は、これより更に、その各《おのおの》の国内における非人道思想や、専制思想と戦わねばなりませんが、日本人の国内におけるこの意味の戦いは、最も多くの苦闘を覚悟する必要があると私は考えます。
新しい人間生活の方針である唯だ一つの理想を、自我実現と愛と正義との方面から見て人道主義と名づけ、人類平等の方面から見て民主主義と名づけたのであると概括して考えている私は、これを一言に簡約して新理想主義と呼びましょう。そうしてこの新理想主義を拒む保守主義者の言動が既に日本の各方面に起っていることは、敏感な自由思想家の見逃さない所であろうと思います。その一つをいえば、官僚的教育者の集団である臨時教育会議が、最近に女子教育を以て家族制度の精神に集中せしめたいという事、及び国民の思想を統一しようという事を政府に向って建議した事実などがそれでしょう。
か
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