数の資本家と、一人の家長とへの奴隷的奉仕に役立つという以外のことはないのです。教育ばかりでなく、宗教も道徳も専ら奴隷的奉仕の器械たるべく他律的に日本人を圧抑する手段たるに過ぎません。そのうえに私たち婦人にあっては一切の男子の下風に立ってそれに奉仕する絶対の屈従を天命とし、無上権威の道徳として課せられているのです。それがためには、特に婦人を愚にして魂の覚醒を禁圧する必要から、男子と対等の教育を私たちに施すことを拒み、名は高等女学校卒業といいながら、男子の中学の二年生程度にも匹敵しない低級な教育を、文明国の体面を保存する言訳だけに授けて置くに過ぎないのです。男子とても教育の自由を実際には許されていないのですから、高等教育を受ける男子は少数の経済上の僥倖者《ぎょうこうしゃ》に限られ、その少数の男子も卒業の後は官僚となり、財閥の成員|乃至《ないし》奉仕者となる人たちが大部分を占めているのですから、大多数の日本人を無学無産の第二次的国民として蔑視する階級思想と、日本の政治、学問、財力のいずれをも少数者の福利のために独占しようとする専制思想とは、次ぎ次ぎにその立派な後継者を得て繁昌しつつあります。
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