事は、この理由から、或程度以上は実行しがたい、無理な註文であるのです。家族制度を維持せよと強制することは、一般国民の経済状態を考えない官僚教育者の僻説であって、人と制度との主客関係を顛倒《てんとう》し、制度のために個人の自我発展を阻止し、個人の活力を圧殺して顧みないものだと思います。
 高田保馬《たかだやすま》氏の新著『社会学的研究』の中には、また特殊の見地から家族制度に対する弱点が暗示されています。即ち人間が家族的|乃至《ないし》民族的というような関係に由って小さく結合する事は、それが内に向って鞏固《きょうこ》であるほど、それだけ排他的精神が強く働き、従って社会的人類的の大きな結合が困難になるという議論です。私はこの議論に敬服します。家族制度の精神は一種の小さな党派根性です。他と自分とを水と油の関係に置いて分離し、新理想主義の極致たる、世界人類を以て連帯責任の共存生活体と見る精神と相容《あいい》れないものです。家族制度の排他思想を最も露骨に示すものは、貴族や富豪の家屋が塀を高くし門を堅くして、他に向って小さな城塞《じょうさい》にひとしい威圧を示さなければ満足しないのでも見ることが出来
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