事は大抵の人に思い当る所があると信じます。
保守主義者は家族制度を以て孝悌忠信の保育所であるように考えているのですが、実際は大抵の場合これと反対な結果を示しているのです。現に地方から都会に出て独立の生活を営んでいる者は、大学の教授、政府の大官、財界の有力者より工場の女子労働者に至るまで、多くは非常な勇断の下に家族制度の精神に背《そむ》いて、かつて一度その郷里の家庭から離れ去った人たちであるのです。現代においては、このように家族制度を超越して、父母の膝下《しっか》を辞し、兄弟相別れて、各自の欲する所に赴《おもむ》いて活動するのが、かえって順当に孝悌忠信の実を挙げる結果になっています。これは決して男女の性別に由って相違のある事ではなく、現代における経済条件の必要と個性に根ざす独立生活の欲望とは、男をも女をも屋外と他郷との労働に就かしめ、特に男子よりもその数において多い我国の婦人労働者は、工場におけるその痩腕《やせうで》の稼ぎから生み出した賃銀に由って自己の衣食を支え、それを以て家長の厄介を尠《すくな》くしているだけでも、家にあって反目と争闘の中に暮している上流階級の家族制度的婦人に比べて
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