かく、それ以上の年齢に達して自由意志を持つ青年男女が、自己の権利と責任観念とに由って自主的に自己の欲求する行動を取り難いということは、いうまでもなく非常の苦痛です。彼らはカントのいわゆる自己目的のために存在する独立の人格者でなくて、家長の意志に由って左右される第二次的人間として存在せねばならないのです。これがために家長と家族との間に忌《いま》わしい反目があり衝突があります。親と子と、兄と弟とが同じ屋根の下に住んで見苦しいかつ悲しい争闘を続けている家庭というものは、我国の現在において随所に発見することが出来ます。女子が良人の選択権を持たず、家長の意志のままに恋愛のない結婚に盲従してしまうのもこの制度のためです。舅姑の勢力が嫁に対して良人より勝《まさ》っているのもこの制度のためです。男子の遊蕩を寛仮《かんか》して妻妾の併存を認容するのも、男女道徳以上に血統を重視する家族制度の特権であるのです。この制度の中に因習的に住む者が思想感情の乖離《かいり》と、物質的福利の争奪と嫉妬とに由って、常に複雑にして醜悪な小人的の私闘を絶たない事は、家族の延長である我国の親族関係において特に顕著であって、この
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