『これでもか、これでもですか。』
『しないのだ。いやだあ。』
 八頭《やつがしら》の芋を洗ふやうにお照は榮子の頭を畳に擦《す》りつけ擦《す》りつけして、そして茶の間へ出て襖子《ふすま》を閉めてしまつた。
『をばあさん。をばあさん。』
 榮子は有らん限りの泣声を立てゝ居る。鏡子は涙を零《こぼ》して居た。
『瑞木さんと花木さんの幼稚園へ行くのを、母さんは通《とほり》まで送つて上げよう。』
 鏡子は身を起してかう云つた。
『二人で行《ゆ》けるのよ。』
 端木が云つた。
『ぢやあ裏門まで。』
 末が赤いめりんすで包んだ双子《ふたご》の弁当を持つて来た。
『瑞木さん、花木さん、おはんけちの好《い》いのを上げませう。』[#底本では「』」は脱落]
 お照は二人のクリイム色の帯に白いはんけちを下げて遣つた。
『ありがたう。叔母さん。』
 瑞木が云ふと叔母は満足らしい笑《えみ》を見せて、
『いつていらつしやい。』
 と云つた。
『叔母さん、行つてまゐります。』
 二人は一緒にかう云つて庭口《にはぐち》から出て行つた。鏡子は二|間《けん》程|後《あと》から歩いて行《ゆ》くのであつた。車屋の角迄|行《ゆ》
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