も自分は彼方《あちら》に居た六ケ月の間、心の中で毎日子に跪《ひざまづ》いて罪を詫びない日はなかつたのであるからと思つて居た。榮子は御飯が熱いから厭《いや》、冷《つめた》いからいけないと三度程も替へさせてやつと食べにかゝつて居るのである。それは母を見ぬやうに目を閉《ふた》いで口を動《うごか》して居るのである。
『私を見るのが厭《いや》で目を閉《ふた》いで居るのね。』
『ふ、ふ。』
とお照は笑つて、
『榮ちやん、好《い》い顔をなさいよ。あなたは真実《ほんとう》に可愛い表情をする人ぢやありませんか。』
と云つて居た。
書斎へ来て新聞を見ようとして、自身の事の出て居るのに気が附いた鏡子は、三四種の新聞を後《うしろ》の靜《しづか》の机の上へそのまゝ載せた。[#底本には「』」があるが除いた]
『お早う。』
瑞木が挨拶に来た。花木も晨も来た。
『何故《なぜ》御挨拶に行《ゆ》けないのです。よくおしやべりをする口で。』
お照の声が不意に書斎の隣で起つて、続いてぴしやり、ぴしやりと子の頭《かしら》を打つ音が鏡子に聞《きこ》[#ルビの「きこ」は底本では「こ」]えた。
『いやだあ、しない、しない。』
前へ
次へ
全50ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング