くびやう》な心が思はせるので、それは心にしまつて居た。
 お照が出て来て、
『英さんがお先に失礼すると申して二階へ上《あが》りました。』
 と云つた。
『さう。あなたも今日《けふ》はくたびれたでせうね。』
『いいえ。そんな事があるものですか。』
 とお照は云つた。京女のその人は行《ゆき》届いた言葉で今度の礼を畑尾に云つて居た。
『また伺ひます。さやうなら。』
 何時《いつ》もの風で畑尾はだしぬけにかう云つて帰つた。
『姉《ねえ》さん、私はね、初め四月《よつき》程の不経済な暮しをして居ました事を思ひますと姉《ねえ》さんに済まなくつて済まなくつて、仕方がないのですよ。』
 お照は右の手首を左の手の掌《ひら》でぐりぐりと返しながら姉の顔を見て云つた。
『済んだことだわ。何とも思つて居やしませんよ。』
 余り聞きたく無い事であつたから鏡子は口早《くちばや》に云つてしまつた。
『榮子の薬代も随分かかりますしね。』
『さうでせう。さうでせう。』
 鏡子は少し自棄気味《やけぎみ》で云つた。
『榮子一人にどれだけお金の掛つたか知れませんよ。』
『あのう、巴里《パリイ》から一番おしまひに来た手紙は何時《
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