方《どちら》。』
『はあい。』
お末は白い前掛で手を拭き拭き出て来て、暗い六畳の半間《はんげん》の戸棚から子供達の寝間着の皆|入《はい》つた中位《ちうぐらゐ》な行李を引き出した。
『榮子さまは好《い》いので御座いますねえ、夏子さんとおねんねで御座いますか。』
『いいのですとも。』
榮子を抱いて来た夏子はくるくると着替へをさせてしまつた。そして末の敷いた蒲団へ小《ちいさ》い身体《からだ》を横に置いて、自身も肱枕をして、
『ねんねえ、ねん、ねん。』
と云つて居た。
『もう皆もお休みなさいよ。』
書斎の母親は座敷に遊んで居る子供達にかう声を掛けた。
『いつもまだまだ寝ないのよ、母《かあ》さん。』
滿は不平らしい声で云つた。
『でも、今朝《けさ》は早く起きたのでせう。だから。』
『はあい。』
と滿は答へた。
『もう眠いのよ。母《かあ》さん。』
母の傍へ来た花木がかう云つた。
『末や、お床《とこ》とつて。』
云ひながら茶の間へ滿が出て行くと、
『まだ早いぢやありませんか。』
とお照が云つた。
『母《かあ》さんが寝なさいつて云ふたんだあ。』
羽織の白い毛糸の紐の先を歯で噛みなが
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