。』
と云つて南夫婦をじつと見た。
『ほ、ほ、ほ。』
と夏子は笑つた。やつとして南は、
『さうですか。』
と云つて居た。南の気の毒なものを見るやうな目附《めつき》が鏡子には寂しく思はれるのであつた。巴里《パリイ》への手紙は今日《けふ》書けないかも知れぬと悲しい気持になつたり、書棚の引出しに確かにある筈《はず》の良人《をつと》と一緒に去年の夏頃とつた写真が見たいものだと云ふ気になつたりして居た。榮子がまたぐずぐず云つて居るのを聞いて夏子が立つて行つた。
榮子は英也の向側に坐つたお照の横に、綿入《わたいれ》を何枚も重ねて脹《ふく》れた袖を奴凧《やつこだこ》のやうに広げて立つて、
『叔母さんとねんの、叔母さんとねんの。』
と連呼して居た。
『どうなすつたの、榮ちやん。夏子さんとおねんねいたしませう。』
と云つて夏子は坐つた。お照は榮子を膝に掛けさせて、
『母《かあ》さんと寝れば好《い》いので御座いますがね。』
と云つた。
『今晩からは御《ご》無理で御座いますよ。榮ちやんいらつしやい。』
榮子は夏子の伸《のば》した手の中へ来た。
『さあお寝召《ねめし》を着かへませう。お末さん何
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